Quality of life
Vol.4 想いをハーブに込めて
/ 渋川飯塚ファーム(ハーブ農家)
Quality of life
Vol.4 想いをハーブに込めて / 渋川飯塚ファーム(ハーブ農家)
TOMOKAZU IIZUKA / AYUMI IIZUKA
Herb Farmer

自分の手でクリエイトする心地よい暮らし

日々を過ごしていく中で、どこで暮らすかということについて改めて考える人たちが増えている。群馬県渋川市でハーブの栽培をしながら、地元で採れたフルーツにハーブやスパイスを合わせたハーブ×フルーツジャムを製造する渋川飯塚ファームの飯塚公知さん、歩さんが都会のフィールドから離れたのはちょうど10年前のこと。

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会社員時代、転勤族だった公知さん、そして仕事が好きで働きたい思いが強く、働きに出るも、慣れたころには次の場所へ転勤が決まり、見知らぬ街で子供を預けるあてもない。結果的に家で過ごすことが多くなり、悶々としていたという歩さん。この先どう暮らしていきたいのか、自分たちに投げかけたその答えは、公知さんの故郷、群馬県渋川市への移住だった。

移住後は、もともと農家だった公知さんのご両親の農機具を借りながら、野菜作りを始めるも失敗。移住前、マンションのベランダで育てていたハーブを、プランタから畑に植え替えたところ、すくすくと元気に育ったバジルやハーブを売りに出し、最初は生計をたてたという。

「ハーブはもともと雑草。売っている種も、ほとんどが品種改良されていない原種のままなんです。だから良い土とか、世話をかけると逆に駄目になってしまう。野菜なんて育たないような痩せた土の方が強くて良いハーブが育つんです」と歩さん。

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ハーブ好きが功を奏し、専業主婦時代にハーブコーディネーターの資格を取得。趣味がいつの間にか生涯の仕事になるとは彼女自身思ってもいなかった。現在ファームでは、バジル、カモミール、ディル、ブルーマロウ、レモングラスの大きく分けると5種類のハーブを栽培している。

「初めは手あたり次第色々な種類のハーブを作っていたのですが、結局使い方がわからないものはお客様も手を出さないので、一般的に名前の通ったものだけを育て加工したものを販売しています。ハーブはどんな土でも強く育ちますが、やはり日照不足は影響してきます。今年は2、3月が暖かく、生育が早かったのですが、カモミールの収穫期の5月に雨が続き、摘める量が少なった。そういった難しさは、まだまだあります。ですがプランターで育てていた頃より、根の張り方や育ち方は全然違います。カモミールは10年目になりますが、最初は虫がついたりして大変だったけれど、土地に合わせて植物も変わっていくらしく、まだ10年ですが、だんだんとこの土地に合ってきているかなという印象。今は虫もつかないですし、香りもとてもいい。香りは一番大事ですから」

そうして進み始めた、ハーブ栽培。イメージの良いハーブですが、ハーブティー用に加工して売り続けても、そこまで多くは売れないだろうと思っていた日々の中から、次第にまた新しい視野が広がっていく。

「近所の農家さんから果物をもらうことが多かったんです。キウイが群馬で獲れるなんて知らなかったくらい、様々なフルーツをいただきました。フルーツとハーブを組み合わせたら、ハーブがもっと身近なものになるかもしれない、それに地元で獲れた食材を使えば町おこしにもつながる。どんな商品を作ろうかと考え、ジャムを作り始めました。初期投資もかからずにできるし、やっぱり農家の奥さんの仕事って言ったらジャム作りですよね」と歩さんから笑みが溢れる。

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「ジャムを作りSNSで発信していたところ、伊香保の旅館から声がかかり商品化を急ぎました。定番の苺やキウイは人気で、メディアに取り上げてもらったり、パン好きのライターさんに紹介してもらったりして、認知も上がってきています。ハーブを使ったジャムは珍しいと、手に取ってもらい、食べてみたら美味しいと言ってもらって、リピートしてくれたら嬉しいですね」と話す公知さん。

ファームでの役割分担について尋ねると「僕は雑用です(笑)うちのファームはメインが妻ですから」と笑いながら公言する。それには理由がある。実は歩さん、結婚前は食品通販メーカーに勤務し、企画を担当していたバリバリのキャリアウーマンだった。そこから専業主婦となり、家で家事と育児をこなす日々の反動から生まれた、抜群の企画力が今、ファームの柱となり原動力になっている。

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新しい価値観や感性を

暮らしに循環させる


“奇を衒ったものは作らない”という一貫したこだわりが、彼らにはある。ハーブと何かを組み合わせるという一見すると不思議なことをやっているように思われがちだが、自分たちなりにストーリーが、自然にできるものだけ作っている。それに彼らがキャッチコピーとして掲げている“群馬のフルーツを美味しくおしゃれに”という言葉通り、ハーブというツールを使って、群馬を、そしてここで育つ豊富な食材を知ってもらえるよう、新しい価値を作っている。素材はもちろんのこと、この想いの部分もぶれないようにしていくことが、一番のこだわりでもある。

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フルーツは近隣の農家から仕入れ、ハーブ栽培から製造・販売までを行っている渋川飯塚ファーム。“手作りのもの”、そして“不必要な添加物は使わない”。そのこだわりは、歩さん、そして家族の日頃のケアにも、垣間見ることができた。

「マンションでハーブを育て始めたのは、化粧品を作るのが好きだったからなんです。今でも自分で作っています。精油をいくつか用意しておいて、ラベンダーや使い勝手の良いハーブも常備して。虫に刺されたときや、化粧水やクリームといったスキンケアも手作りして親子で使っています。もちろん、よく食べ、よく動き、よく寝るという正しい生活リズムをすることや、食べるものを気をつけるとか、便秘しないようにするといった、内からの美というのはベースとして、バランスは取りながらもできるだけオーガニックで、安心できるものを使いたいという考えがあってのことですね。自分の子供たちにもそう教えながら、受け継いでいけたらと思っています」

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5年前に持った直営店を昨年閉めたことで、仕事のペースも穏やかになり家族の時間が増えただけでなく、仕事の内容も少しずつ変化し始めた。お店があることで直売に重きをおいていた意識が、メーカーという意識に変わってきたことで、卸先を増やしていくことや、ジャムを使った製造委託やメニュー開発の依頼も増え引き受けるように。

既存のやり方に囚われることなく、関連性のある他業種とつながりを持つことで、新しいアイディアが生まれる。それに、一度都会で暮らし、会社で働いた経験があるからこそ、それが田舎の良さを再確認することができ、田舎暮らしで武器にもなっている。そうやってファームの足場は固まってきた。ここからまた彼らは新たな夢に向かっていく。

「5年先、もっと先になるかもしれないですが、大きな夢があります。それは“食と癒しのテーマパークを作ること”。群馬は食材の宝庫。美味しいものはもちろんのこと、すぐ近くには伊香保温泉もあります。いつか自分で考えたハーブを使ったコスメも作りたい。それが全部叶う場所を作れたら、癒しのまちとしてここを発展させていくことが、理想です」と歩さんは大きな夢を描く。“PUSH THE LIMIT=限界を押し広げる”これは、公知さんが学生の頃から大切にしてきた言葉。歩さんはもちろん、会社としての共通の価値観として共有している。

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「趣味の山登りを通して知った言葉です。自分の限界を越え、知った上で、その限界を1mmでもあげることができたなら、きっともっと上を目指すことができる。これは、人生においても仕事においても、コアになっている言葉。できない人が頑張るのはすごいことですし、できる人がもっと頑張るのも素晴らしいこと。誰かと競い合って精神衛生上良くない、何事もまずは自分との戦いですから」

ハーブを通して得る、新しい価値観や感性のようなものを、地域に注ぎ循環させていく。そうやって、飯塚公知さんと歩さんは、自分自身でみんなが心地良い居場所を作っていっている。

PROFILE

飯塚公知・歩/いいづかともかず・あゆみ 2012年3月に代表である飯塚公知が大手石油会社を脱サラし、故郷の群馬県へ家族で移住、農業未経験で有機野菜やハーブ栽培を始めたことが渋川飯塚ファームのはじまり。現在は、群馬県渋川市でハーブ栽培をしながら、群馬県産フルーツにハーブやスパイスを組み合わせた“ハーブ×フルーツジャム”を製造している。